本文(Ⅱ)

2021年12月20日 15時26分 [茨城県生涯学習審議会]
第3章 地域教育力の拠点整備の推進
1 小学校等の学校施設の開放

 地域の教育力を向上させるためには,地域の人々が集い活動する空間が必要です。そのための施設として,これまで公民館,児童館,子どもセンター,コミュニティーセンター,生涯学習センター等が整備されています。これらの施設での諸活動をなお一層充実していくことも大切なことですが,住民自らが身近な場所で,また世代を越えていつでも自由に集うことのできる場所も必要とされています。
 地域の中には身近に,子どもたちが学ぶ,あるいは大人たちがかつて学んだ小学校があります。しかし,小学校はこれまで,学校教育の場としての活用にのみ重きが置かれてきました。この小学校を学校教育のみならず,地域教育力を再生する新たな活動拠点として利用することが考えられます。このことによって,家庭,学校,地域社会が密接な連携を図りつつ,子育ち,子育て,親育ち等の問題に取り組むことが可能になります。少子化に伴い,地域によっては小学校の余裕教室も目立つようになってきました。また,小学校には体育館,校庭等の設備が整備されており,これらの公共設備を有効に活用することが求められます。
 本委員会は,まず小学校を地域の活動拠点として開放して行くことを提言します。そして,小学校単位の活動を活発化させるために,今できることからすぐに実行する必要があると考えます。

2 地域住民による自主的な活動の促進と環境整備

 小学校の施設開放は,これまでの公共サービスの在り方とは異なり,地域住民の主体性を導き出す貴重な生涯学習の機会となります。つまり,住民が学びながら企画・立案し,参加者を募集するため地域に声をかけることによって,地域のリーダーとして育つことのできる大切な機会であると言えます。
 このように貴重な学習資源である小学校の施設開放を実りあるものにするためには,自助・自立・自己責任を基本姿勢とした住民主体の運営ができるよう計画・実行されることが大切です。そのための方策等を以下にまとめました。

(1) 小学校を開放するための住民組織づくり

①地域住民は,小学校を地域の生活文化を発信する,生涯学習の重要な機会として位置づけ,ボランティアによる「事務局」と「運営委員会」を組織します。運営委員会は,あらゆる世代の交流が可能となるよう,中高齢者,子育て世代,青少年,小・中・高校生等で構成します。
②運営委員会は,管理責任,利用者心得等施設を利用するにあたって,子どもたちも理解ができるような簡単なルールづくりが必要です。
③多様な学習ニーズをコーディネートする指導者の養成が求められます。教育をはじめ,様々な活動に携わってきた人たち,学生ボランティア等の積極的な参加が期待されます。
④運営委員会は,子どもの時代から積極的に地域に関わってもらえるよう,ヤングボランティア,ジュニアリーダー等の高校生,中学生等を積極的に活用します。
⑤運営委員会は,地域で活動するNPO等の団体と連携をとりつつ,開放された学校施設において,以下のようなイベント,学習会など,子育ち,子育てのための社会教育活動を展開します。
⑥小学校の開放による活動には,誰でも,何時でも参加できるオープンな雰囲気をつくることが大切です。
⑦当面は,放課後,土・日曜日,長期休暇中の開放を基本とし,学校教育に支障のないように運営すべきであると考えます。
活 動 例
 ・子育ち広場
 ・学童保育
 ・子どもの読書活動,読み聞かせ活動
 ・親子すこやか交流活動
 ・高齢者と子どもの対話,ふれあい活動(昔の生活技術や遊びの伝承)
 ・臨時託児所
 ・子育て相談
(2) 地域住民による組織運営を容易にするための支援の在り方
 住民組織の運営や事業実施に必要な経費は,安易に公的助成に求めるのではなく,受益者負担を原則とした公平な負担方法を住民自らが決めることが大切です。
 その際,市町村等は,住民負担を少しでも軽減できるよう,「子どもゆめ基金」等国や地方公共団体等が実施している助成制度や支援施策,また講師,ボランティア等の人材情報等を,誰にでも分かるように集約し,情報提供を行う必要があります。
 なお,民間の活力を生かして,新たな活動組織や事業を創出するため,民間が管理する基金を設置して資金不足に対応する貸付制度や,プロポーザル方式による助成制度の創設等も有効な支援策と考えられます。

(3) ハード面での支援の在り方
 地域住民による自主的な活動が円滑に行われるよう,ハード面の整備の充実が求められます。まず,学校開放のための事務局となり,子どもたちと,子どもたちと交流する人々のための場となる余裕教室の確保が必要です。また,そこに家庭で不用となった遊具,楽器,パソコン,図書館から借りた絵本や本などを常置して,学び,読書,遊び,異世代交流をとおして培われる子どもたちの社会化のための魅力ある空間とすることも大切です。さらに,活動によっては,調理室,理科室,音楽室等特別教室も積極的に活用できるようにしていくべきであると考えます。
 市町村は,こうした開放を側面から支援するため,施設使用料等の免除や開放施設の管理責任等の法的な整備を行うとともに,必要に応じて開放施設の専用出入り口や教室等との間仕切りの設置を行うなど,地域に学校施設を容易に開放できる環境を整えることが必要です。

(4) 地域住民による学校評価の必要性
 小学校の施設開放を推進していくためには,地域住民による学校評価のシステムが必要となります。学校の評価は,基本的に全ての学校教育活動に対して行うものですが,その際,家庭・地域社会との連携や開かれた学校づくりの観点を設けることが必要です。そして,教職員や児童生徒による自己評価のみならず,保護者や地域住民による外部評価を行い,学校開放の進捗状況を評価し,その結果を公表することが大切です。そうすることが,学校の教育力及び家庭と地域の教育力を高め,ひいては,地域に開かれた学校としての責任を果たしていくことにもつながります。

 
読み聞かせ(友部町立友部小学校)        読み聞かせ(友部町立友部小学校)
   

具体的活動の提案 その1

「読書の輪 本を囲んでスプリングプラン」
 読書は,自分自身を知る自己形成とコミュニケーション能力の育成に大変有効です。本を読むということは,人間にとって基本的な行為なのです。
 ところが近年,子どもたちの活字離れが社会的な問題のひとつとして取り上げられるようになってきました。それに対して,大人たちがあまり手だてを講じなかったことも事実です。
 そこで,本という媒体で人が集まってきて動いていく。「本のあるところ」「本を読めるところ」「本を読んでもらえるところ」,本を中心にして赤ちゃんからお年寄りまでが集うことのできるスプリングプランが必要であると考えます。
 本の集め方に関しては,家庭にあるいらなくなった本を集めても魅力のない本しか集まらないし,整理や廃棄に労力を要するので,県立図書館や市町村立図書館から借りる方法が望ましいと考えます。
 地域住民,中学生や高校生にも呼びかけて会を結成し,企画運営に関して自分たちの問題として話し合いながら進めることが大切です。
 平日の昼間は,子育て中のお母さん方が子どもたちと絵本を読めるような空間を作ります。土・日曜日,長期休暇中には,絵本の選び方及び読み聞かせに関するイベント等を開催します。これは,県立図書館等で行われている読み聞かせに関する研修を修了した方々に,活動の場を提供することにもつながります。

具体的活動の提案 その2

「ナイス60 子どもと遊ぼうスプリングプラン」
 学校でも家庭でも地域社会でも,子どもにじっくり時間をかけて心を尽くして徹底的に付き合ってくれる大人が減少しています。学校の先生方も多忙化し,忙しい合間をぬって子どもと触れ合っているような現状があります。家庭も地域も同じです。これが,現代の子どもを取り巻く大きな問題のひとつになっています。
 そこで,子どもにじっくりと付き合える時間と,豊富な社会経験と知識を持った60歳代をターゲットにしたスプリングプランが有効となります。
 親も先生もじっくり子どもに付き合ってくれないけれど,おじいちゃんやおばあちゃんは付き合ってくれるというのが最大のメリットとなります。
 基本的に,活動は60歳代の地域住民によるボランティアが運営します。
 ・60歳代の地域住民が,豊富な社会経験と知識を活用して,子どもたちに様々な学習機会を提供します。
 ・60歳代の地域住民が,豊富な社会経験と知識を活用して,子どもたちを存分に遊ばせる機会を提供します。
 ・60歳代の地域住民と子どもたちが一緒になって企画・運営し,様々なイベントを開催します。

具体的活動の提案 その3
「出会いの創出 子育て応援スプリングプラン」
 「三つ子の魂百まで」の例えのとおり,3歳~5歳の頃の人間教育こそ重要であると考えます。また,小学校に入学するまでの子どもを持つ母親の中には,コミュニケーションの不足から,孤独な育児に追われ支援を必要とする方が存在しています。
 そこで,小学校の余裕教室を地域住民の情報交換と育児の場として開放するスプリングプランが必要となります。小さい子を持つ親をはじめ,誰もが参加でき,そこへ行けばいろいろな悩みを出し合い,聞いてもらい,話し合うことができ,多くの物事が解決できる出会いの空間を創出します。
 基本的に,活動は地域住民によるボランティアが運営します。
 学校の授業参観や行事の際には,小さな子どもを連れた参加者に対する託児ボランティアを実施します。
 学校の授業のある時間帯については,廊下指導ボランティアとして活動し,休み時間や昼休みの児童生徒の相談相手になるなどして,積極的に子どもたちと関わり,様々な問題解決のきっかけづくりをします。

 
学社融合「地域協働学校」             小中学校における野菜活用促進セミナー
(緒川村立緒川中学校)               (内原町立内原中学校)


社会教育委員からひとこと
 氏名  有田 道子
Spring.
こんこんと湧きだして止むことのない泉。
この水の周り(学校にある空き教室)に集まって,語り合う人々。人間の求めていることは,いつの時代もさほど変わってはいないものです。人と人とが出会う場。出会って語り合うことから物事は始まると思います。スプリングとは源とも春とも考えられます。春は,これからという希望があります。このプランが具現化することを希望します。
沖縄の那覇市では,14校が学校開放し有効利用されている様です。成功例やあまり上手くいっていない所など,参考にすることも必要かと思います。

 氏名  稲場 淑江
平成12年12月22」日における教育改革国民会議報告では,「これからの教育の役割は,一人一人の持って生まれた才能を引き出し,それを最大限に発揮させる事にある。」「これからの学校は,子どもの社会自立の場,一人一人の多様な力と才能を引き出し伸ばす場として再生されなければならない。」としています。前述を踏まえ,小学校開放の前に,まずは,取り組む諸関係者の理解と合意を得なければなりません。
青少年は,他の市民たちの話を理解し,考え方や問題を分かち合う読み書きの力(リテラシー,コミュニケーション能力)が必要とされます。また,地域社会の中で積極的に活動できる力(地域社会の中で行動する力)を高めるには,地域社会との連携が重要です。この3つの力の循環の中で,青少年たちは市民性を身につけると同時に,地域社会の強化につながる効果が得られます。ポイントは,体験を振り返って学ぶことにあります。また,「意義ある地域社会へのサービス」と,「学習」を結びつける学習法であることを理解しなければなりません。したがって,記憶中心の教育から,感性,思考,行動,好奇心を重視した教育への意識転換を行い,これからの地域を共につくる関係を構築するために,互いが理解と協力を惜しまないことが前提となります。
小学校を拠点にした地域社会の中で,ボランティア活動の体験プログラムを実施することで,青少年たちは自己表現能力を高め,他の人々の生活に役立つことに責任を持ち,多くを学ぶことで自信を得,成長していくでしょう。

 氏名  遠藤 正孝
核家族が増加する中で,地域の持つ役割は大切なものだと思われます。
子どもを育てる上では,地域の子どもたちに親身になって善悪の判断を教えてくれる大人が存在する地域は,家族にとって,子どもたちにより人間性を養う場としてとても大切です。特に,子育てをしている若い世代からすれば,道徳教育を充実させ,親としてのあり方を学習していく場だと思われます。
そうした地域づくりは,いつの時代でも大事なものであり,今,最も欠けているように思われます。
地域の中での伝統的な文化の発掘と,新しい時代にふさわしい文化の企画や発展に向けた取り組みを世代間交流の場から育てて,活力に満ちた地域づくりを推進していく必要があると考えます。

 氏名  大窪 修二
地域における学校開放は,地域連携を深める上で大変重要な役割を果たすことになります。
コミセンや公民館と同じように,学校も公共サービス機関として,今までのように余裕教室の利用だけではなく,調理室・理科室・音楽室など特殊設備のある教室を含め,地域の人々に利用の門戸を開くべきだと考えます。
学校の土曜日・日曜日の開放は,民間に責任ある管理運営を任せる方法もあり,すでに県内でも普段の学校経営から切り離し,土曜校長を選任して学校開放を実施している地域もあります。地域の利用しやすい施設となるために,利用者の視点に立った運営が必要となります。
学校を利用する人々が,単に個人の利用に終わるのではなく,人と人とが関わりをもつことのできる場であり,誰でも自由に学ぶことのできる教室であり,学びながら教えることで共に育っていける空間であるべきだと考えます。そのためには,利用者が自ら企画する講座などが考えられます。
今までの公共サービスとは違い,お客様を迎えるばかりの講座でなく,企画・立案・人員の募集等までを,利用者が学び,実行し,地域に声をかけ,リーダーとして育つことのできる生涯学習の大切な機会だと考えます。
志ある者が学び,地域にその成果を還元する。そのための施設開放であり,大人にとっては様々な知識を得ることができ,より多くの地域の人たちとの出会いの場,子どもたちにとってもより多くの興味あることとの出会いの場となるようにと考えます。

 氏名  大久保 英紘
潤いのある地域づくりとは“家族的な思いやりの気持ち”が通じる社会であり家族と同様に,その地域で育った文化(遊び)や伝統(祭り)を次の時代に伝えていく事が家族的地域づくりの始まりであり,“潤いのある地域づくり”つながるのではないでしょうか。
家族的地域づくりのためには,親子三代(お年寄り・親・子ども)で暮らした家族関係の利点を生かし,共通点(挨拶・言葉遣い・人への思いやり)を生かした地域の学習会(イベントを含む)や地域の生活(暮らし)とリンクした発信基地として小学校開放の場を活用することが有効です。
-成功事例-
学校開放によって生徒と地域の人々とのふれあいが多くなり,素直な態度で明るいあいさつをすることができるようになりました。また,生徒はきれいに清掃し,整理・整頓した特別教室を使っていただく心構えができ,地域の人々は使用後きちんと清掃して返すという相乗的な行動がとれています。

 氏名  大野 重男
「家庭と地域の教育力の再生」については,もう十分な議論が出尽くしており,なぜ具体的かつ有効なアクションを取り得なかったのか,その反省がまず必要です。
問題の先送りの積み重ねと,誰かがうまくやってくれるのではないかといった当事者意識の欠落が,今日の現状の源にあるのです。民も官も,「不作為の罪」を負っています。
完璧な計画を練り上げることに神経質になるより,大方がよいと思ったことについては,どんどん実行に移すことが大切です。今のわが国の教育環境の上にのしかかっている閉塞感を吹き飛ばすには,よいと思ったことを,ぐずぐずしないで,片っ端から素早くどんどんやっていくこと。それに尽きるのではないかと考えます。
私は,特に,学校開放を施設(建物)の開放に限ることなく,学校機能全体の開放と地域社会の他の教育機能との緊密な連携を強調したいと考えます。もう一度小学校6年生の算数と国語だけ勉強し直したいなどといった健気な大人が,生徒として子どもたちと机を並べて授業を受けるといった教育機能の開放があっていいと思います。小学校にしても,校舎に縛り付けられた日々ではなく,地域社会の全体の教育施設を頻繁に活用する日々に切り替えるといった,学校自体の地域社会に向かった開放があってよいと考えます。今のご時世,県から中央に要望なんてことでなく,茨城県が全国に率先してよいと思ったことをどんどんやり,日本中に影響を与えるさきがけの役を担っていこうではありませんか。
私が特に提言したいのは,以下の3点です。
そうした意味で,「学校の機能を地域へ開放」を掲げた「スプリングプラン」は,小学校に限るとか,土日だけとか,最初から足かせをかけたような不完全開放が気になりますが,取っ掛かりは小学校からでよいと思います。問題が出たら走りながら解決を図っていくことが大切です。何よりも大事なのは明日からでも,できるところからすぐ着手しようという,スピード感覚の導入であると私は考えています。そして,全県一斉にとか,全部横並びとかはやめにすることが必要です。ぐずぐずしているところには,どんどん置いてけぼりを食らわせ,後になってあせってついてくるように仕向けることも大切です 。
① 「子ども夢基金」等,団体等が活動するときに,どこでどういう助成が受けられるのか一目で分かるような情報提供が必要であると考えます。
② 団体等の円滑な活動を促進するため当座の運営に係る資金の貸し付け基金を,自助自立自己責任ベースで作り,民間主導で運営するための支援が必要であると考えます。
③ 仕組みを作ることが必要であると考えます。なお,良い実績を上げた団体には次年度も助成し,実績が思わしくなかった団体へは助成をうち切ることも大切です。

 氏名  小澤 三枝
アンケートによると,子育てに関する情報収集は,「子育て仲間や子どもの友人の親から情報を得る」ことが多いと回答しています。このことから子育て仲間が集える場所を提供することにより,情報収集が容易になり,子育ての悩みの解消にも役立つものと思われます。
 その1つの方法として,幼稚園を開放して,未就学児を持つ親が,一定時間幼稚園で子どもを遊ばせながら,幼稚園児との関わりや他の親との対話,教職員との交流をとおして,子育て情報を得ていくことができると思います。
小学校は,地域の中心部にあり,歩いて集まることが可能な距離にあることが多いということから,地域の活動拠点としてはたいへん好条件です。また,小学校は子どもや親,地域住民にとって,親近感が感じられる場所です。このような場所を地域住民の交流の場として活用することは,たいへんすばらしいことと思います。
しかし,現状は施設管理等の面から簡単に実現できることではありません。まずは,体育館や校庭など開放可能な所を有効に活用しながら,ひとつひとつのハードルをクリアしていくことが重要であると考えます。また,その学校の教職員にばかり支援を求めるのではなく,中心となって活躍する人を,地域で育てていくことが大切であると思います。行政や地域で子育てに関するいろいろな支援策を考えても,それに積極的に関わろうとする親の気持ちが育っていなければ,成果は上がりません。そのためには,中学生や高校生の頃から,多くの人との交流の楽しさや地域との関わりを経験させながら長い目でその心を育てていくことが大切であると思います。

 氏名  川上 美智子
子育てが親たちにとって一大事業であることは昔も今も同じです。しかし,複雑化した現代社会への不適応や人間関係に傷つく子どもたちが増えており,子育ち,子育てを大変難しくしています。子どもだけでは解決できない問題,親にも解決できない問題がたくさんあり,頭を抱えてしまう状況にあります。親にとって子育てが苦痛や重荷などでなく,喜びや楽しみとなるにはどうしたらよいのでしょうか。子育ては親の責任と切り捨てるのは簡単ですが,小さく刻まれた家族の中で救いの手を求めている子どもたち,親たちがいることにもっと耳をかたむけるべきではないのか。すべての地域の人々が子どもたちや子育て中の親たちに向けるやさしい眼差しや思いやりの行動,それが子どもたちや親たちの大きな力になるに違いありません。
このような思いから,健やかな子育ち,子育てを社会の側から側面支援する仕組みを構築する作業は始まりました。異世代間の交流の場の創出と,それを拠点として子どもたちが健やかに社会性を身につけ大人に成長して行く仕組み,子育てを通して大人たちが成長し生きがいや達成感を実感できる仕組みを考えてみました。
 「スプリング・プラン」と名づけられた一粒の麦,それぞれの地域に根付かせ,大きく育てて欲しいと願っています。

 氏名  櫻井 よう子
子どもたちの健全な育成や地域の教育力の向上を図るため,特に大切だと考えていることを2点提案いたします。
1つは,地域で取り組んでいる三世代交流の事業など,世代を超えて交流できる場や機会を拡充して行くことです。いつの時代でも子どもたちは,母親だけでなく,父親,祖父母,近隣の大人たちなど,豊かな知恵と経験を有する様々な人々とのふれあいをとおして心豊かな人間として成長していきます。
少子高齢化や核家族化が進むにつれて,子どもたちが地域の中に出て行く機会が益々少なくなっていることは憂慮すべきことだと考えます。私は今までに,地域の女性たちと共に様々な活動を行ってきましたが,子どもたちと高齢者との交流が特に大切だと,最近強く感じています。
具体的な例で申し上げますと,私も何回か敬老会に参加してきましたが,お金のあった時代には,市町村でもいろいろと事業を計画しました。お年寄りを集め記念品を配ったり,あるいは,有名な落語家を呼んだりという敬老会です。しかし,子どもたちと高齢者との交流ということを考えると,小学校に高齢者の方々を招いて,小学校の子どもたちの様々な活動,小学校の校長先生の談話,そういうものでもてなすことが大切です。敬老会ばかりではなく,運動会や学習発表会などいろいろな学校の催しの時に高齢者を招待するのです。そういう場面を意識的に作っていくことが求められると思います。そうすることによって,子どもたちは,高齢者とのふれあいの中から豊かな知恵や思いやりの心を学んでいくのです。
2つ目は行政に求める事ですが,政策的に行うことについては,相手側にわかりやすく,かつ,すぐ実行できるように,内容や指示事項を周知徹底させることです。
例えば,ある市町村では教育長が,「今年から完全学校週5日制が実施され,総合的な学習の時間も始まったので,学校の先生方も休みは一住民として,自宅のある地域で活躍してほしい。」と述べたそうですが,どれくらいの先生方が教育長の意思をくみとっているか疑問です。
こういうことは,県あるいは市町村の教育委員会から,学校と家庭や地域社会との連携の必要性やどのように事業を進めて行くのかを,先生方に伝わるよう,通知文等の手段をもって,もっと強く行えば周知徹底されるのではないかと考えます。

 氏名  佐藤 宏之
[提案1] 
人間は,生まれた瞬間から死ぬまでの一生が学習の中に生きています。
しかも,このうち3歳から5歳の幼児の「すりこみの時代」こそは,次に続く「小学校教育」の,効果的な充実を図る上でのベースとなると共に,その人の一生を左右することになる重要な時期です。

3歳から5歳の(社会生活にふさわしい行動ができるようなしつけ教育を行うため)保育園を幼稚園に統合し,幼稚園運営を学校教育の一環に組み入れ,小学校の幼少課程と位置づけ,保育園で行ってきている保育を,学校に入学した際の社会生活上の行動ができるようなシステムにすることが大切だと考えます。(必要があれば文部科学省と厚生労働省の縦割りを改め)小学校の教員もこの幼稚園教育に参加して,この段階での生活行動上のしつけ教育を充実させます。
[提案2]
小中学生のいじめっ子などは,日頃つき合いのあるその学校の教員に対しては,遠慮も恐怖感もないのが実情です。そこで,地域からの有償ボランティアにより,小中学校でのいじめの温床になっている廊下などでの生活指導を充実させることが考えられます。「地域しつけティーチャー」を各学校区で創設し,積極的に活動します。
[提案3]
異業種・異分野の交流を盛んにするため,いかなる分野の出身者でも別分野の大学院に入学できて,十分資格を得られ社会的活動ができるように枠を広げます。
[提案4]
コンサートや展覧会等で席が埋まらない場合,主催者の判断で,小中学生については(無料で入場できるようになるなら)主催者が考える地域,またはそのジャンルの活動が盛んな地域の小中学校に無料チケットを配布することができるようにします。
人気に関係なく,芸術的に素晴らしく,感動的な芸術作品の発表が存在します。せっかくの研鑽の結果を空席に向かって発するよりは子どもに視聴覚体験,驚愕・感動のコンサートや展覧会に来て実体験してもらい,文化芸術の見分け聴き分けができる感覚を身につけさせます。そうすれば,結果的に,情操教育としての革命的時代を創り出すことが出来ます。県が強力にサポートすれば,小中学校側も動きがとれるでしょう。
〈課題1〉窓口を民間のボランティア(例:NPO子どもに芸術的感動を与える会)で運営する。
〈課題2〉付き添いの保護者は有料
[提案5]
民間活力を大きく伸ばし,きめ細かい芸術を住民に提供できるようにするためには,公民館使用規定に幅を持たせ,有料の演奏会や展覧会も出来るようにします。(「無料で」と言われた途端,民間では上演不可能となり,地域の芸術家の活動の場は制限されてしまうのです。)「有料上演可能」となれば,実質的にはホールを多数建造したのと同じ事になり,茨城の文化状況は一変すると思います。 
[提案6]
芸術価値は高いが作家の元に保管され日の目を見ない芸術作品を,県庁はじめ自治体の庁舎などの壁を提供し,それらの画家や陶芸家の作品を半年単位の長期展示をします。県外からのお客さんにも茨城県の作家層の厚いことをアピールできます。県内の芸術家たち及び県の芸術について,行政の側の積極的な考えがPRでき,芸術家たちに勇気を与えることにもなっていきます。展示しているところには,その作家のプロフィール等の資料を置くことも大切です。
作家や芸術家にとっても,「県庁の○○○に行けば私の作品があります。」とPRでき,多くの人々に知ってもらえるし,そのことは大きな意味で茨城の豊かな文化展開につながっていきます。
[提案7]
今ある組織(県生涯学習課とそれをとりまく組織)の存在と,目的,スタッフの中身を,広く県民にPRしその有効活用を図ることが大切です。

 氏名  清水 浩
今回,当委員会が提言する「スプリングプラン」は,親も子もみんなが身近な場所で集い,交流を深める「潤いのある地域づくり」を目途に,かつて,人々のくらしの基盤として機能していた共同井戸を中心とする温かな生活空間を,現代社会に再生させようとする試みです。したがって,このスプリングプランの成否は,家庭や地域がこれまでに積み上げて来た成果を,時代のニーズに合わせていかに掘り起こし,子どもを育む環境づくりに活用していくことができるかにかかっていると思われます。
そこで,このプランを進めていくうえで,特に次の二点について配慮が望まれます。
第1は,子どもを育む良好な環境とは,あらゆる危険因子を排除した無菌社会を用意することでも,特定の価値観のもとに純化することでもないということです。とかく私たちは,子どもは守るもの・育てるものという意識に捕らわれがちですが,子どもには,自らさまざまな養分を吸収し育っていく潜在的な能力が備わっていることを忘れてはなりません。それらの芽を信じ,彼らが創造的に活動できる場や機会を創出することこそ,地域社会や社会教育の役割です。このスタンスをしっかりと踏まえたうえで,互いに連携を求めていくことが望まれます。
第2に,連携の在り方に工夫を求めたいと思います。何かをなす場合,関係機関が個々に培ったノウハウを持ち寄り,共通のテーマに向けて協力していくことは大切であり,実りも大きくなります。しかし連携とはそういう形だけではありません。それぞれのスタンスで活動しながら,互いに響きあい,ひとつにフィールドを共有していくという連携の仕方もあります。一見ばらばらに活動しているように見えて,実はそこに様々な刺激に満ちた世界があり,主体的・創造的な活動を促すエネルギーがあります。その場合,当然のことながらそれぞれの世界をつなぎあわせるコンダクター役が必要です。このコンダクター役こそ社会教育の役割と言えるでしょう。
人間関係が年々希薄になっていく社会にあって,子どもたちに生きる力をつけるにはどうすべきか,知恵を出し合わなければなりません。

 氏名  沼尻 直
 私は,家庭と地域の教育力を再生させるためには,いろいろな活動をしている団体,子ども会や高校生会,スポーツ少年団,老人会など既存の団体をうまく活用し,支援していくことが大切だと思います。
 私は,長年にわたってスポーツ少年団活動に携わっているので,少年団を例に考えました。
 県内にも数多くのスポーツ少年団があり活動しています。多くの少年団は土日に小学校の校庭などを利用して活動しているわけですが,屋外に十分なトイレもない学校が数多くあります。学校を開放するのであれば,まずは最低限の施設を整備するような支援が必要です。
 もう1つは,指導者の問題です。学校にも熱心な先生はたくさんいますが,少年団の指導者はほとんど学校とは関係ない地域の人たちです。もっと学校の先生方にも自分の住んでいる地域で,指導者として活躍してほしいと思います。それが,学校の施設等ハード面ばかりの開放ばかりでなく,指導力というソフト面での開放にもつながると考えます。
 このように,既存の各団体へのハード面とソフト面での支援や開放を行うことによって,その活動を活発化させることが家庭と地域の教育力を再生させることにつながっていくのではないでしょうか。

 氏名  堀越 輝子
潤いのある地域社会を作るために,いろいろな環境整備や支援策が考えられると思いますが,それらを実施していく上で一番基本に考えてほしいことがあります。それは,次の4つです。

① 日常のあいさつを徹底する。
② 日本人として先輩や親を大切にする意識を育てる。
③ 自分や自分の住んでいる地域に誇りを持てる人間を育てる。
④ 参加して楽しい。
また,犯罪や不安定な要素の多い現代社会において,「スプリング・プラン」はとても大切なプランだと思います。地域の教育力を高めるだけでなく,このプランをとおして地域の人間関係が密接になって,お互いの顔が分かるようになれば,子どもを犯罪から守ることや地域の安全といったことにもつながっていきます。このような面から考えても,多方面に有効なプランだと思います。

氏名  松村 直道
東海村とペンギンくらぶの実践は,特に財政的な事に関係なく,他の自治体でもそれなりの工夫をすれば可能です。ではどんな工夫や労力が必要なのかを2つの実践の中から抽出し,整理してはどうでしょうか。そうした情報は,最も有効なものになるのではないかと思われます。

 氏名  本橋 アンナ
私の意見として,学校を地域の拠点として使用するのは,いい事かどうかわかりません。
第1に安全面は難しいと思います。ボランティアの方がどのように,参加者たちの健康面や安全面の責任をとったらいいのでしょうか。
第2に,どこから多くのボランティアをこのプロジェクトに募ったらいいのでしょうか。小さな町や村では特に,これを維持することは難しいでしょう。
この活動は,ただボランティアに頼っているので,結果的に地域の活動は大きな町や市に有利になります。
茨城県民,特に子どもたちが,活動にアクセスでき,勇気づけられ,励まされ,学習を向上させるには大きな努力がいります。
私は,人口1万人の町に住んでいますが,いまだに子どもたちが茨城県の活動にアクセスできる場所は,学校以外では見あたりません。
学校が,子どもたちに平等な機会を与える道具となるならば,子どもたちが住んでいる所に関係なく,機会を提供しなければなりません。

おわりに
平成13年度から2年間をかけて,社会教育の視点から子どもが育つ環境を良くするためのプログラムについて議論し,報告書「子どもを健やかに育む環境整備~家庭と地域の教育力の再生を図る社会教育の新たな役割~」をまとめました。
家庭という私的な閉鎖空間の中で子どもが育てられている現代社会の仕組みには大きな落とし穴があり,親の過保護,過干渉,虐待などによって自立や自律ができない社会性が欠如した子どもたち,心の病を抱え社会に出て行けない子どもたちを生む結果となりました。これは,子どもたちにとっても,親たちにとっても,また,社会にとっても不幸なことです。
家庭,保育園(所),幼稚園,学校,地域,社会など,生涯にわたり子どもたちが学習する場がたくさん用意されているにもかかわらず,それらがうまく機能していない現実も否めません。
茨城県社会教育委員会議では,子どもたちの発達に主体的な役割を担う家庭と,それをサポートする家庭以外の場が上手に連携しあいながら,みんなで子どもの成長を見守るシステムを作ることの大切さを確認し,知恵を出しあい,時には激しい議論をし合って,「潤いのある地域社会をつくるスプリング(泉)・プラン」を誕生させました。
この中で,一点強調したいのは,子どもたちが1日の多くの時間を過ごす地域の小学校を学校教育の場として活用するだけでなく,広く地域に開放して,これを足がかりにして地域ぐるみで子どもたちに関わろうという点です。もしその子が学校嫌いなら,果たしてそれでもうまく行くのか,一方ではそんな心配もありますが,子どもを学校嫌いにさせないためにも,敢えて豊富な経験を持った個性あるたくさんの地域の人たちに関わりを持ってもらって,子どもたちにとって居心地の良い,やすらぎのある場にして行ければと考えています。子どもたちそれぞれが伸び伸びと個性を発揮でき,また,世代を越えた幅広い年齢層が互いの価値観をぶつけ合い,地域文化を生み出す場になればと考えています。
子どもを健やかに育む環境整備 2021-12-20 [茨城県生涯学習審議会]
2021-12-20 [茨城県生涯学習審議会]
2021-12-20 [茨城県生涯学習審議会]
本文(Ⅱ)
2021-12-20 [茨城県生涯学習審議会]
2021-12-20 [茨城県生涯学習審議会]
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2021-12-20 [茨城県生涯学習審議会]
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